ボーナスは支給日に在籍していないともらえないのか
Q
ボーナスは支給日に在籍していないともらえないのか
事情があって、5月いっぱいで会社を退職しようと考えています。この話を上司に相談したところ、「5月末に退職するのなら、6月のボーナスはもらえない。」と言われました。ボーナスの算定期間は12月から5月までなのですが、私の場合は本当にもらえないのでしょうか。
A
法的ポイント
賞与(ボーナス)の支給対象者などは、原則として当事者間で自由に定めることができます。支給日に在籍している者に対し支給するということが、就業規則などで明確に定められていたり、従来からの慣行になっている場合には、算定期間(支給対象期間)に勤務していても、支給日に在籍しないことを理由に、支給しなくても差し支えないとされています。
支給日在籍が支給条件という規定や慣行が無いと認められる場合には、支給日に在籍しなくても、他の要件を満たしていれば、支給を求めることができますので、会社の就業規則などについて確認することが必要です。
退職日を労働者本人が選ぶことのできる自主退職の場合は、支給日在籍を要件とする規定や慣行があれば、支給日に在籍しないことを理由に賞与を支給しなくても差し支えないとされています。また、裁判例では、退職日を自ら選ぶことのできない定年退職者についても適法としたものがあり、支給日在籍要件を有効とする傾向にあります。
- 【定年退職者に対する支給日在籍要件を有効とした裁判例】
- 会社の給与規程には、賞与の支給日、支給対象期間、支給日現在に在籍している者に支給すること等が定められており、賞与支給日の10日前に定年により退職した者には賞与が支給されなかったことに対して賞与の支給を求めた事件で、「賞与の受給資格者につき支給日現在在籍していることを要するとするいわゆる支給日在籍要件は、受給資格者を明確な基準で確定する必要から定められているものであり、十分合理性はあると認められる。
賞与の性質及び支給日在籍要件も給与規程に明記されていることからすれば、支給対象期間経過後支給日の前日までに退職した者に不測の損害を与えるものとはいえないし、支給日在籍者と不在籍者との間に不当な差別を設けるものということもできない。」として、賞与の支給日に在籍していないことを理由に、これを支給しなかった会社の措置は正当であるとしました。
(カツデン事件(東京地裁 平成8.10.29判決))
- 【支給日在籍要件の合理性の判例】
- 就業規則等に「賞与は、支給日に在籍している者に対し支給する。」などと、「支給日在籍要件」を定めることについては、判例は、合理的なものとして認めています。
(京都新聞社事件・最一小判昭和60年3月12日など)。 - また、就業規則等の明文の定めがなくても、労使間で従来からそのような慣行が確立している場合には、同じように在籍しないことを理由に支給しなくても差し支えないと考えられています。
(大和銀行事件・最一小判昭和57年10月7日 )。 - したがって、就業規則等による定めや労使慣行が存在すれば、算定期間の全部ないしは一部を勤務したのに、賞与支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱いは適法と認められることになります。
判例がこのような見解をとるのは、賞与を出すかどうか、賞与を出す場合どのような条件とするかなどについては法令では定められておらず、労使の自由に任されており、したがって、「支給日に在籍していない者には賞与を支給しない」旨の規定も有効と考えられるからです。
(梶鋳造所事件・名古屋地判昭和55年10月8日)
- 【会社都合による場合の判例】
- 定年や人員整理等の会社都合による退職の場合には、労働者は退職日を労働者本人が選択することができず、不利益を被る可能性があります。したがって、支給日在籍条項は、労働者の自発的退職の場合だけに合理性があると考えるのが、法的には妥当と思われます。
また、支給日在籍要件でいう「支給日」とは、賞与が支給される予定の日であり、現実の支給が遅れたり、あるいは使用者が故意に支給を遅らせたりした場合には、仮に現実の支給日前に退職したとしても、支給予定日に在籍していれば賞与を受け取る権利はあるものと考えられます。
(須賀工業事件 東京地裁 平12.2.14) - また、賞与支給を避けるために解雇するといった場合は、解雇自体が無効。仮に解雇が有効としても、解雇によって支給日に在籍しないことを理由とする賞与不支給が無効とされ、賞与の支給を受けることができると考えられます。
アドバイス
賞与については、(1)査定期間、(2)支給基準日、(3)支払日などについて、就業規則等の規定があるか確認が必要です。
就業規則等に「賞与は、支給日に在籍している者に対し支給する。」などと、「支給日在籍要件」を定めることについては、判例は合理的なものとして認めています。
また、就業規則等に定めが無くても、労使間で従来からそのような慣行が確立している場合には、同じように在籍しないことを理由に支給されないこともあります。
したがって、就業規則等による定めや労使慣行が存在すれば、算定期間の全部ないしは一部を勤務したのに、賞与支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱いは適法と考えられます。
ただし、使用者の視点で考えれば、労使慣行があったという事実を証明し、労働者を納得させることは困難であり、就業規則を実態の運用を踏まえて整備することは、余計なトラブルを防止するためにも重要なことです。