辞めることを撤回することはできないのか?
Q
辞めることを撤回することはできないのか?
正社員として運送会社に勤めている。勤続は5年目。先日、集荷の最中に物損事故を起こしてしまった。総務から、事故に対しての処分として始末書を出すように言われている。
一方、直属の上司からは、注意力が足りないなどと事故についての嫌みを幾度となく言ってくる。
あまりにしつこいので、つい感情的になってしまって「交通事故の件が一段落したら辞めます」と言ってしまった。
その後、同僚から、「会社はあなたに辞めてもらいたいと考えている」と聞き、上司に「辞めることは撤回します」と伝えた。
しかし上司は、「男に二言は無いはず」と、掛け合ってくれず、自己都合として辞めてもらう手続きを進めていると言う。
辞めることを撤回することはできないのか?
A
法的ポイント
従業員の方から「辞めます」と雇用契約の解除を一方的に通知したもので、会社に伝わった時点で退職が有効となり効力が発生しますので、原則、撤回を申し出ても、会社が撤回に合意しない限り退職となります。
退職の手続きに関しては、特に法律上の規制はなく、口頭でも文書でも有効となります。
ただし「辞めたいと思いますけど・・」などのあやふやな表現の場合、退職の撤回が有効となる場合があります。
民法で合意退職の効果を否定するには、合意退職の申し込みが会社側の「強迫」によるものである(例えは、退職願を無理やり書かされたもの)ことを立証する必要があります。
その他に「契約無効事由」としては下記のものが考えられます。
- 民法93条(心理留保)・・・相手方が表意者の真意を知り、または知ることができる場合、その意思表示は無効となる。
- 民法94条(通謀虚偽(つうぼうきょぎ))・・・・相手側と通じてした虚偽の意思表示は無効とする。
- 民法95条(錯誤)・・・法行為の要素に錯誤があった時は無効とする。
- 民法96条(詐欺または脅迫)・・・詐欺または脅迫の場合は取り消すことができる。
などが考えられます。詳しくは、民法をご覧ください。
- 合意退職と辞職の違い
- 労働者側から会社を辞める場合には「合意退職」と「辞職」があります。合意退職とは、使用者と労働者が合意のうえ、労働契約を将来に向けて解約することをいいます。これに対し「辞職」とは、労働者が一方的に労働契約を解除することをいいます。
- 退職願いと退職届
- 退職願は会社に承認を依頼するもので、会社が承認すれば退職となります。一方、退職届は、労働者が一方的に「退職」の意思表示をし、退職することをいいます。「辞めます」との発言は「退職届」に該当します。
アドバイス
ご相談者の場合、感情的になったとはいえ、明らかな退職の意思を会社側に伝えており(口頭とは言えども)、会社がすでに手続きを始めていることから、その意思が人事に係る決定の及ぶところまで伝わっていると考えられます。
従って、退職の撤回は、会社側の合意がない限り困難だと考えられます。
こういった場合、上司との感情的なやり取りに端を発しているわけですから、そのことを人事・労務の責任者に事情をていねいに説明し、退職の撤回に理解を得ることが必要だと思われます。(ざっくばらんに言うと、頭を下げて退職の取り消しをお願いしてみてください)