現場までの移動時間は残業手当として請求できるか?
Q
現場までの移動時間は残業手当として請求できるか?
住宅機器会社に正社員として就職して2か月になります。仕事は主に太陽光パネルの住宅への設置をしています。勤務時間は朝8時30分~となっていますが、実際には1時間~1時間半前に出社して現場にむかいます。タイムカードはありますが、別に日報があり、賃金に反映するのは現場で仕事をした時間と言われています。
時には、直接現場へ行く日もありますが、その分の交通費は会社に支払っていただいています。しかし、現場は遠方が多く、必然的に早出になります。
現場で作業が終わっても、事務所に帰社できるのは1時間~1時間半後です。もちろん、日報を夕方提出してから自宅へ帰っています。
移動時間含め残業時間として請求したいが可能ですか?
A
法的ポイント
移動時間は、労働時間なのか通勤時間なのか、これについては2つの考え方があります。
- 移動時間は通勤と同じ性質のものであり労働時間ではないとする考え方
- 移動中も事業主の支配管理下にある拘束時間であり労働時間であるとする考え方
労基法には、労働時間を細かく定義した条文はありません。ちなみに、労災保険法上は出張の移動は、通勤災害ではなく、業務災害として取り扱います。
これらを踏まえ、以下の代表的な判例でこの2つの考え方の違いを見てみましょう。
- 【判例】
- 「阿由葉工務店事件」平14.11.15 東京地裁判決
会社事務所と現場の往復は、通勤としての性格を有するものであって、これに要した時間は、労働時間、すなわち使用者の指揮命令下に置かれた時間に当たらないとしたもの。
労災事故に遭った後に退職した元従業員が、休業補償給付金や残業代(現場までの移動に要した時間等)などを請求した事件
業務実態
- 出勤の際、会社事務所に立ち寄り、車両により単独または複数で現場に向かっていたこと
- 車両による移動は会社が命じたものではなく、車両運転者、集合時刻等も移動者の間で任意に定められていたこと
- 当日の作業内容については前日までに決まっていたことが多く、改めて会社事務所において指示されず、その必要もなかったこと
判決
上記の理由から、会社事務所と現場との往復は通勤としての性格を多分に有するものであり、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている労働時間には当たらないと判断しました。
- 【判例】
- 「総設事件」平20.2.22 東京地裁判決 集合時刻の前後の一定作業を行うなどした後の車両による移動も上司の指示に基づいて現場に赴くものであり、拘束時間のうちの自由時間とはいえず、実働時間として判断されたもの。
元配管工らが、会社から一方的に即日解雇されたことを理由に、解雇予告手当と残業代(集合から現場までの往復移動時間と終業後の片付け等の時間)を請求した事件
業務実態
- 会社の所定就業時間は午前8時~午後5時までだった。
- 従業員らは、6時30分頃に事務所から徒歩5分ほどの場所にある資材置き場にバイクなり車で来て、そこで会社の車両に資材等を積み込み、その後、6時50分頃には事務所に集合していた。尚、事務所に集合することが原則化しており、現場に直行する者はまれだった。
- 事務所では、使用者と親方らによる番割りや留意事項等の業務の打合せが行われ、その間、従業員らも倉庫から資材を車両に積み込んだり、入る現場や作業につき親方の指示を待つ状態にあった。
- 車両による現場への移動も、使用者からの指示等に基づき親方と組になって赴いていた。
- 現場での作業を終えた後も行きと同様に親方と組になって車両により事務所へ戻ることが原則化しており、戻ってからは道具の洗浄や資材の整理等していた。
判決
東京地裁は次のような理由から事務所集合後の準備時間や、現場までの移動時間、現場から事務所までの移動時間、事務所に戻った後の道具の洗浄等をしている時間についてを使用者の指揮命令下に置かれている労働時間として認め、当該時間における割増賃金の支払いを命じました。
アドバイス
ご質問のケースでは、出社してから現場に移動し、帰社後に日報を提出していることから、移動時間も事業主の支配管理下にある拘束時間と判断され、労働時間と判断され、残業手当の請求ができると考えて良いでしょう。
ただし、現場での作業が主たる業務であり、会社への出勤義務がなく、直接現場に出勤するとの指示がある場合は、業務の開始は現場と考えられるので、たとえ会社に集まって会社の車で移動したとしても、労働時間とはならず、移動時間は通勤時間の一環として取り扱われます。また、直行直帰の場合も、通勤時間と考えられます。
また出張する場合の移動時間については、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられることから所要時間は労働時間に算入されず、時間外労働ではないと判断される場合もあります。【参考:「日本工業検査事件」昭49.1.26 横浜地裁判決】